中原みすず 「初恋」

FF3がどこにも(ヤマダ電機のLABI1なんば、ビックカメラヨドバシカメラ、阪急、Sofmapなど)売ってません…。「買うな!」という神様の思し召しだと判断し、家で本を読んでみたbonlifeです。

初恋

初恋

三億円事件」という使いやすいモチーフにミスマッチな「初恋」という甘いタイトル。こういうわざとらしいのはちょっとなぁ…と思って敬遠していた「初恋」を読んでみました。
な、なんなの、これ。淡々と語られる灰色の美しい日々。父を亡くし、母に出て行かれて叔父、叔母の家で暮らす中原みすず17歳。ジャズが流れる喫茶"B"に出入りするようになり、仲間と出会って。岸に誘われ三億円事件。その後、色々なことが徐々に分かっていくが…といった感じの内容。沁みる作品ですよ、これ。
三億円事件」の犯人のモノローグのような出だしで始まるこの小説の作者も主人公も中原みすず。え、これってホントの話?どうなの、どうなの!と思う人もいるかもしれませんが、そんなのどうでも良くなるぐらい素敵な小説です。私のような若い世代が決して味わうことができない、60年代のあの空気。煙草の煙の間を縫うようにマイルスが流れる店内。薄暗い喫茶店の中で、難しい議論や軽薄な話に花を咲かせる若者たち。それが全てだと思いました。小説全体の根底にあるなんともいえない寂寥感でさえも本質ではないと思います。鈍く輝く失われた「青春」の引き立て役に過ぎないんじゃないかしら。「三億円事件」でさえも淡く切ない「初恋」のきっかけに過ぎないような気がします。
とか色々と書こうと思いましたが、私は単純に60年代の熱気に嫉妬しているだけなんです。あの時代は誰もが正しくて、誰もが輝いていた…。羨ましいなぁ。